中小企業のデザイン経営、はじめの一歩「販路を広げたい」
2022/05/24
「中小企業のデザイン経営、はじめの一歩」シリーズとして、
前回は「会社の人格形成」というテーマでお送りしました。
特許庁が、中小企業のデザイン経営の要素を整理したものがこちら。9つの要素を3つのフレームに分けて説明しています。
中でも特徴だといえるのが「会社の人格形成」に取り組むことです。
詳しく知りたい方は、こちらの記事も読んでみてください。
自社なりの入り口をつくることが大切
デザイン経営には9つの要素がありますが、全てに取り組んでいかなければならないというものではありません。
デザイン経営は、目的ではなく課題解決のための手段です。
自社が抱える課題に合わせて、要素を組み合わせ、最適な方法で取り組んでいけばよいのです。
特許庁から「課題別 デザイン経営の入り口」も示されています。
どれも実際に多くの中小企業の方が抱える課題ではないでしょうか。
販路を広げるための、デザイン経営「入り口」
販路を広げるために、まず取り組むと効果的とされる4つの要素が以下です。
1.歴史や強みを棚卸しする(IDENTITY)
2.魅力ある物語を発信する(STORYTELLING)
3.人を観察・洞察する(INSIGHT)
4.心をつかむモノ・サービスをつくる(EXECTION)
それぞれの内容をみていきましょう。
1.歴史や強みを棚卸しする(IDENTITY)
「歴史や強みを棚卸しする」ことは、これまで自社が顧客に提供しつづけてきた価値を再確認し、自社はなぜ存在するかを再認識するとともに、未来に向けた新たな価値を生み出すための軸を探す行為である。
神戸市で電子機器製造業を営む新和工業は、デザイン経営に取り組むにあたり、デザイナーとともにコーポレート・アイデンティティを確認することから始めた。会社の歴史を棚卸したうえで、社長自身が前職で大切にしていたことも全社員に共有。こうした取り組みを通じてぶれない軸が生まれ、新規事業への取り組みにも弾みがついた。
社内の人材は常に流動している。古参社員であれ、新入社員であれ、一人ひとりが会社の価値を理解し、それを実現するための一員として行動することで、徐々に会社の「文化」が形成されていく。
一方、会社の内側からの視点だけでは気づけないこともある。そんな時こそ、物事の本質から問い直すデザイナーのような人材を外部から交えることが有効だろう。
<引用>中小企業のためのデザイン経営ハンドブック P.11
2.魅力ある物語を発信する(STORYTELLING)
モノが溢れる現代、消費者は製品の「価格」や「質」だけではなく、「ストーリー」をより重視するようになっている。
製品はどのようにしてでき上がったのか。事業を通して社会にどう貢献し、どのような未来を目指すのか。ストーリーを語ることが、顧客との強い絆を築く鍵となる。
ヤマモ味噌醤油醸造元・七代目高橋泰氏は「一代で成し遂げられない価値を最大化するほうが、世界の中で競争力を持つ」という。かつて家業を「呪い」と捉えていた高橋氏は、事業を承継する過程で「私たちの企業は一体何者なのか」を深掘りし、文化や歴史、地域性に紐づく自社の強みを再発見した。高橋氏はウェブサイトを自らデザインし、同社の歴史や目指す未来、地域貢献のための活動など、多様なコンテンツを日本語、英語で綴っている。
日本は世界的に見ても長寿企業が多い。その企業の歴史や思いを紐解き、物語として発信することは、顧客をファンに変えていくための武器となろう。
<引用>中小企業のためのデザイン経営ハンドブック P.13
3.人を観察・洞察する(INSIGHT)
顧客の声に耳を傾けよ—
「デザイン経営」という言葉が生まれる以前から繰り返されてきたアドバイスだが、ここでいう「顧客」とはそもそも誰を指すのか。
デザイン経営の文脈でこの言葉が使われる場合、未来の顧客を指すことが多い。まだ見ぬ顧客を惹きつけ、ファンにしていく。そこに、優れたデザイナーが培ってきた叡智を応用するのだ。
叡智の真髄は、「観察」と「洞察」にある。
人のふとした言動に目を向け、その人に共感し、ときに憑依して、その裏側にある心理を読み解く。こうしたプロセスを商品開発やサービス開発に取り込むことで、真に人々の心をつかむモノが生まれる。
1935年創業の靴下メーカーである昌和莫大小では、自社ブランドのメインターゲットである市民アスリートと交流するSNS上の場を設置。そこでのやり取りから、コロナ渦におけるスポーツ用マスクの需要をつかんだ。開発にも彼らのフィードバックを取り入れ、ヒット商品の誕生につながった。
<引用>中小企業のためのデザイン経営ハンドブック P.14
4.心をつかむモノ・サービスをつくる(EXECTION)
デザイン経営における「デザイン」の意味は、色や形といった意匠にとどまらない。
では、意匠としてのデザインは不要かというと、そうではない。美しいプロダクトや洗練されたウェブサイトは、ブランド価値を底上げする一定の効果をもたらす。
幼児向けの遊具などを製造するジャクエツは、デザイナーや建築家、研究者らとともに、共創コミュニティ「PLAYDESIGNLAB」を運営する。プロダクトデザイナーの深澤直人らとともに企画・製造した遊具のデザイン性は高く評価され、数多くのメディアに取り上げられるほか、同社の売り上げにも大きく貢献している。
本レポートでは、デザイン経営の「9つの入り口」を紹介した。1から順にステップを踏んで実践する必要はないが、最終的に魅力的なプロダクトやサービスを生み出し、人の心をつかむことができなければ、ビジネスには繋がらない。人はロジックでは動かない。感情に働きかけ、人を動かすもの。それがデザインなのだ。
<引用>中小企業のためのデザイン経営ハンドブック P.15
具体的に4つの要素を確認してきました。
まとめると、
自社の存在意義を再認識し、それをきちんと社外に伝える、
そして未来の顧客を具体的に設定し、その心をつかむモノ・サービスを生み出す、という流れです。
少し具体的に見えてきたでしょうか?
次回は「新規事業をつくる」ということに対して、デザイン経営でどのように取り組んでいけるかまとめていきます。
中小企業のためのデザイン経営ハンドブック
【Texted by】
ARISA KUSABA( director )
本メディアは、デザインが経営課題を解決する手段であることを経営者の方へ広く知っていただきたいという思いのもと、情報発信を行っています。
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