[chai break] 経営者の思考を形に。会話をしながら生み出したティースタンドのデザイン
2023/08/02
「紅茶をカジュアルに楽しむ市場やカルチャーを創りたい」という思いをもとに、紅茶専門店「チャイブレイク」を運営されている水野学さま。
チャイブレイクのロゴなどのデザインをきっかけに私たちとのお付き合いが始まり、ティースタンド「チャロチャロ!チャイブレイク」のブランディングもお手伝いしています。
その開発プロセスやブランドにおけるデザインの役割、デザインへの投資の意義についてお聞きしました。
ご協力いただいた企業さま
chai break / チャイブレイク
代表 水野学さま
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ロゴがコミュニケーションを生む
きっかけにもなっています。
_水野さんは2009年に吉祥寺・井の頭公園のほとりに紅茶専門店「チャイブレイク」をオープンし、デザインエイエムがロゴやテイクアウト用のカップ、紙袋などのデザインを担当しました。それから14年間、水野さんはロゴなどのデザインを使用し続けていますが、その価値や役割についてどのように感じていますか。
結論から言うと、最初にしっかりデザインしていただいて良かったと思っています。
テイクアウトして井の頭公園でチャイを飲んでいるシーンを想定し、手提げの紙袋やカップのデザインを見た人が「あのマークなんだろう」と目を引くマークをつくりたいとご相談しました。
その想定通り「チャイブレイクのマークを公園で見かける」と常連の方から言われたり、「この渦巻き模様はどういう意味なんですか」と来店したお客さまから質問されたり、ロゴがコミュニケーションを生むきっかけにもなっています。テイクアウトカップや看板の写真をSNSで見かける機会も増えていて、期待以上の役割を果たしてくれていると思っています。
チャイブレイクのロゴなどのデザインを担当させていただいた後、水野さんが経営されているシングルオリジンティーの輸入販売会社「t-break(ティーブレイク)のロゴも担当させていただきましたね。
20年以上前から旬の紅茶を輸入する仕事をしています。その後、ECサイトの構想なども、ご相談しましたよね。まだ実現できていないのですが、溝田さんには構想の段階から色々相談させてもらっています。
_そういったコミュニケーションを経て、ティースタンド「chalo chalo! chai break(チャロチャロ! チャイブレイク)」のデザインも依頼されたのですね。
溝田さんにメールで「テイクアウトをメインとしたティースタンドをやろうと思っている」と伝えたら、すぐに「いいですね!」と返信がありました。チャイブレイクの世界観や私が目指していることなど知ってくれているので、チャロチャロ! チャイブレイクでやろうとしていることも、すぐに理解してもらえた覚えがあります。
以前から、ティースタンドに関心を持たれていましたよね。チャイブレイクのロゴをデザインするときのヒアリングシートを今回、あらためて見返してみたら「将来、テイクアウトメインのお店なども出せたら」といった記述がありました。
たしかにチャイブレイクをつくったころから、テイクアウトをメインにした業態には関心がありました。紅茶に関わる仕事をするようになってからずっと、市場やカルチャーを広げていくことに興味があり、コーヒーと同じように紅茶もカジュアルに楽しんでもらいたいと思っています。
今回、ご縁があって丸井吉祥寺店(以下、丸井)に出店できる可能性があることがわかり、ティースタンドの実現に向けて動き出しました。
ただ、溝田さんにご連絡したときはまだ丸井への出店は確定していませんでした。
デザインエイエムさんと話すことで自分の考えが整理され、
具体化することができました。
_出店場所は確定していないけれど、ティースタンドを出店することは決まっていたということですね。その状況で、具体的に何から始めていかれたのですか。
たしか、私がつくった企画書をもとに打ち合わせしましたね。
そうですね。ティーブレイクとチャイブレイクをどういう考えで運営しているか、あらためて整理した上で、チャロチャロ!チャイブレイクのブランド名の説明や出店に至った経緯など、共有してくださいました。
_チャロチャロ!チャイブレイクという店名は、溝田さんに依頼した時点で決まっていたんですね。一度聞いたら忘れられない、音の響きがかわいい名称ですね。
ありがとうございます。溝田さんにご依頼したときには、名前だけは決定していました。
「chalo chalo!(チャロチャロ)」は、ヒンディー語で ”Let’s go!” という意味があります。「チャイを持って外に出よう!」「チャイを片手に井の頭公園に行こう!」という思いを込めて名付けました。
ただ、当時決まっていたのは、ティースタンドをつくることのみ。それ以外のことは流動的で、イメージも固まっていませんでした。溝田さんに話すことで自分の考えが整理されていき、少しずつ具体化していきました。
そうでしたね。水野さんの思いや考えをもとに、まずはロゴの開発に着手し、方向性を一つずつ確認しながら進めていきました。
_具体的にロゴはどのようにデザインされたのですか。
14年間にわたって築き上げてきたチャイブレイクのブランドは資産なので、それをベースに考えることは大前提でした。とはいえ、チャイブレイクの存在を意識しながらも、最初から1つの方向性や世界観に絞り込まず、できる限り表現の可能性は広げて考えました。
ロゴは、たしか5案くらい提案していただきましたね。
チャイブレイクのロゴを生かした案と、チャロチャロ!チャイブレイクの頭文字でデザインした案、人の手でつくる価値を表現した案、インドやスリランカの象徴であり、吉祥寺のイメージとして根付いている象をモチーフにした案などがあったと思います。
_採用した案の決め手は。
今回は珍しく溝田さんが「これがいいと思う」と言ったんです。それで溝田さんを信じて、それにしようと決断しました。
普段、プレゼンで自分の意見は言わないんですけどね。
_なぜ、今回は言ったのですか。
チャイブレイクは吉祥寺に根づいてきていて、常連の方やファンも増えつつある。そのブランド力をできるだけ活用したほうがいいと思いました。どのデザインもチャイブレイクという「幹」をもとに考案しましたが、その中でも採用された案は最も幹に近いデザインです。
チャイブレイクを知る人には「新しいお店ができたんだ」と気付いてもらうことができ、初めて知る人にはチャイブレイクを知ってもらうきっかけにもなるはずです。たしか、ロゴが決定したころ、丸井への出店も決まったんですよね。
丸井の1階に新しい食のゾーン「吉祥寺 ビオガーデンマルシェ」がオープンすることになり、その一角に出店が決まりました。
それが2022年11月ごろで、「吉祥寺 ビオガーデンマルシェ」のオープンは2023年2月。準備期間はわずか3ヶ月というタイトなスケジュールの中、ロゴに続いて決めたのは店舗のデザインやインテリアでしたね。
店舗デザインの軸も、ロゴと同様にチャイブレイクの世界観です。チャイブレイクはヴィンテージ感があり、質感を言葉で表現するなら「ツルツル」ではなく「ザラザラ」。無機質な空間ではなく有機的なイメージで、そのエッセンスをうまく取り入れられたらいいなと。
私から具体的にリクエストしたのは「インドらしさを出すこと」でしたね。
チャイブレイクのエッセンスを取り入れた上で、100%インドらしい表現と、100%インドらしさのない表現を考えながら、どのあたりがベストか検討していました。紆余曲折ありましたが、カジュアルに紅茶を楽しんでもらいたいという思いがベースにあるので、チャロチャロ!チャイブレイクのテーマは「インドのストリート感」に決まりました。
インドらしさは内装ではなく、インドで購入してきたチャイを飲むための器や玩具などで表現しています。
ストリート感を出すために、壁や什器に入れたメニューやメッセージは手書き風にデザインしました。書体は、ロゴと同じイメージになるように一文字ずつデザインしたオリジナルです。カジュアルな雰囲気になるように仕上げました。
店頭で説明しながら商品を提供したいというリクエストもありましたよね。会話を生むことも意識して、あえて欧文でデザインしました。
テイクアウトカップも、チャロチャロ!チャイブレイクのオリジナルデザインです。真面目になりすぎず、できるだけカジュアルに遊び心のあるデザインになるように、ポップなイラストでデザインしてもらいました。
そのイラストは、以前からご縁があったイラストレーターが描いたもの。それを使用してデザインしてほしいと、私からお願いしました。
イラストには、井の頭公園のモチーフが散りばめられています。チャロチャロ!チャイブレイクらしいデザインになりました。
核となるデザインを最初に決めておくことは、
コンセプトと同じくらい重要。
_オープン後の反響について教えてください。
チャイブレイクの常連のお客さまからは「明るい雰囲気でいいね」といった声をいただき、滑り出しは好調です。
_おすすめのメニューや人気メニューは何ですか。
どれもおすすめなんですけどね(笑)。
初めて来店された方には、スパイスチャイの定番「マサラ」をおすすめしています。想定より注文が多いのは、水出しのアイスティーです。イートインスペースを利用する方も多いので、イートインできるフードやアイスティーの種類なども増やしていこうと計画しています。
水野さんがお店を始めたのは、紅茶をカジュアルに楽しんでもらうことが目的なので、それに一歩近づいているのですね。
そうなんですよ。オープンしてみないとわからないものですね。
そもそも、新しいお店は、営業しないと気づかないこともあり、お客さまの声や反応を見ながら調整や改善していくものだと思っています。そのとき拠り所となるのが、ロゴなどのデザインです。核となるデザインや世界観を最初に決めておくことは、コンセプトと同じくらい重要なものだと思っています。
_デザイン経営に取り組む企業が増える一方、デザインへの投資を迷う経営者も少なくありません。そのことについて水野さんのご意見をお聞かせください。
それはデザインのプロだからできることで、労力も時間もかかっている。つまり、それなりの対価を支払うことは当然です。その価値をどう捉えるか。それは、ビジネスに対する思いの強さによって変わるような気がします。
経営は理想だけではやっていけず、スタッフみんなが「食べていく」ために、短期的にモノを見てしまうことも理解できます。水野さんは当初から「流行に左右されない、長く続くお店をつくりたい」という希望がありました。
ビジネスを長期的な視点で考えているかどうかも、デザインに投資するかどうかの鍵になると思います。
今回の仕事に限らず、私たちが目指しているのは「最低でも20年は使えるロゴ」であること。その考えは、スタートアップの仕事でも100年の歴史があるブランドのリニューアルでも変わりません。
_デザイン会社と長く付き合うことについては、どうお考えですか。
今回、自分の考えや思いを形にしてもらえたのも、これまでのお付き合いがあってこそだと思っています。出会ったころより、何でも話せるようにもなりました(笑)。デザインのことを気軽に相談できるので、安心感もあります。
そのとき表層的なことだけを聞いても、本質的なデザインはできません。ビジネスに対する根本的なことを知ることはもちろん、一見するとデザインとは関係ない話をすることも重要なんです。
「笑われるかもしれないけど、実はこんなことやってみたいんだよね」というような将来の夢や野望とか。きっと、経営者だったらあると思います。そんな経営者の夢や希望を聞かせていただき、デザインでサポートしたいと思っています。
社外から自分たちがどう見えているかを知ることは、やりたいことを実現する上でも大切だと思います。そんなとき、溝田さんの意見はとても参考になります。
デザイナーは一般的なお客さまの視点も持ちながら、多面的にモノゴトを見る能力も兼ね備えていますからね。これからもお役に立てるように、パートナーとして緩やかにつながっていけたらいいなと思っています。
今日はありがとうございました。
【Texted by】
デザインライター 西山薫
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