中小企業のデザイン経営、はじめの一歩「新規事業をつくりたい」
2022/06/21
「中小企業のデザイン経営、はじめの一歩」シリーズとして、
前回は「販路を広げる」という課題に対する取り組み方をまとめました。
今回は「新規事業をつくる」ということに対して、お話ししていきます。
自社なりの入り口をつくることが大切
まずはおさらいから。
特許庁が、中小企業のデザイン経営の要素を整理したものがこちら。
9つの要素を3つのフレームに分けて説明しています。
しかし、9つ全てに取り組んでいかなければならないというものではありません。
デザイン経営は、目的ではなく課題解決のための手段です。
自社が抱える課題に合わせて、要素を組み合わせ、最適な方法で取り組んでいけばよいのです。
「課題別 デザイン経営の入り口」も示されています。
もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事も読んでみてください。
→第3回 中小企業のデザイン経営、はじめの一歩「会社の人格形成」
→第4回 中小企業のデザイン経営、はじめの一歩「販路を広げたい」
新規事業をつくるための、デザイン経営「入り口」
新規事業をつくるために、まず取り組むと効果的とされる4つの要素が以下です。
1.社内外の仲間を巻き込む(COLLABORATION)
2.人を観察・洞察する(INSIGHT)
3.実験と失敗を繰り返す(PROTOTYPING)
4.心をつかむモノ・サービスをつくる(EXECTION)
それぞれの内容をみていきましょう。
1.社内外の仲間を巻き込む(COLLABORATION)
いかなる個人より、全員の方が賢い。
デザイン思考の生みの親と言われるIDEOの共同経営者トム・ケリー氏の言葉だ。
多種多様な知識や経験、ネットワークを掛け合わせることで、より人に寄り添ったモノやサービスが生まれる。
コラボレーションの鍵は「発信と共有」にある。メンバーの仕事内容はもちろん、得手・不得手、目指す未来まで、チーム内で発信、共有されている状態が望ましい。心理的安全性を高めることで、助け合いの文化が醸成される。社外のデザイナーを巻き込む際も同様だ。
ウェブサイトやSNS、直接の折衝でも自社のビジョンを透明性をもって発信、共有する。
佐賀県で貼箱を手がける一新堂では「自社のもつ価値をクリエイティブの力で具現化・発信し、選ばれる企業になりたい」という未来像をデザイナーに伝え、自社のできること、できないことを誠実に共有しながら、議論を深めた。こうした姿勢がコラボレーションを成功へ導き、新たな事業が生まれている。
<引用>中小企業のためのデザイン経営ハンドブック P.13
2. 人を観察・洞察する(INSIGHT)
顧客の声に耳を傾けよ—
「デザイン経営」という言葉が生まれる以前から繰り返されてきたアドバイスだが、ここでいう「顧客」とはそもそも誰を指すのか。
デザイン経営の文脈でこの言葉が使われる場合、未来の顧客を指すことが多い。まだ見ぬ顧客を惹きつけ、ファンにしていく。そこに、優れたデザイナーが培ってきた叡智を応用するのだ。
叡智の真髄は、「観察」と「洞察」にある。
人のふとした言動に目を向け、その人に共感し、ときに憑依して、その裏側にある心理を読み解く。こうしたプロセスを商品開発やサービス開発に取り込むことで、真に人々の心をつかむモノが生まれる。
1935年創業の靴下メーカーである昌和莫大小では、自社ブランドのメインターゲットである市民アスリートと交流するSNS上の場を設置。そこでのやり取りから、コロナ渦におけるスポーツ用マスクの需要をつかんだ。開発にも彼らのフィードバックを取り入れ、ヒット商品の誕生につながった。
<引用>中小企業のためのデザイン経営ハンドブック P.14
3. 実験と失敗を繰り返す(PROTOTYPING)
プロトタイピングは、自動車、建築、情報処理など、多くの分野で使われる言葉だが、デザイン経営の文脈では顧客にアイデアを体験してもらい、その価値を検証する役割を持つものとして使われる。
しかし、その本質は「実験」と「失敗」を繰り返しながらそのフィードバックを取り入れ、スピーディにアイデアを形にしていく点にある。
建築金物を製造するユニオンでは、社長を含めた全社員が「失敗を恐れない」というマインドで製品を企画し、次々にプロトタイピングしている。そうしてできあがったプロトタイプに対し、社長や顧客のフィードバックを経ながら、完成品に仕立てていく。現在、同社では3000種類以上ものオリジナル製品を作り出している。
プロトタイプは完成品の見本ではない。顧客と対話をし、フィードバックをもらうための道具である。ユニオンの場合、3Dプリンタを使用するが、それがなければ紙や粘土、あるいはスケッチでもいい。つくりながら考えることが、アイデアを形にする第一歩だ。
<引用>中小企業のためのデザイン経営ハンドブック P.15
4. 心をつかむモノ・サービスをつくる(EXECTION)
デザイン経営における「デザイン」の意味は、色や形といった意匠にとどまらない。
では、意匠としてのデザインは不要かというと、そうではない。美しいプロダクトや洗練されたウェブサイトは、ブランド価値を底上げする一定の効果をもたらす。
幼児向けの遊具などを製造するジャクエツは、デザイナーや建築家、研究者らとともに、共創コミュニティ「PLAYDESIGNLAB」を運営する。プロダクトデザイナーの深澤直人らとともに企画・製造した遊具のデザイン性は高く評価され、数多くのメディアに取り上げられるほか、同社の売り上げにも大きく貢献している。
本レポートでは、デザイン経営の「9つの入り口」を紹介した。1から順にステップを踏んで実践する必要はないが、最終的に魅力的なプロダクトやサービスを生み出し、人の心をつかむことができなければ、ビジネスには繋がらない。人はロジックでは動かない。感情に働きかけ、人を動かすもの。それがデザインなのだ。
<引用>中小企業のためのデザイン経営ハンドブック P.15
具体的に4つの要素を確認してきました。
社内外の仲間を巻き込む(このとき自社について誠実に共有しながら議論を深めることが寛容!)、
未来の顧客を具体的に設定したうえで、プロトタイプを作成して実際にフィードバックを受ける、
そして顧客の心をつかむモノ・サービスに育てていく、という流れが見えてきましたね。
当社のお客さまでも新規事業の開発に取り組まれ、成果を出されたお客さまがいらっしゃいます。
具体的な事例はこちらから。
新規事業自体がもたらす効果(売上アップなど)はもちろんですが、
事業立ち上げの取り組みを通して社員の主体性が増すといったことも期待できます。
次回は「下請けから抜け出す」という課題に対して、デザイン経営でどのように取り組んでいけるかまとめていきます。
<引用>
中小企業のためのデザイン経営ハンドブック
【Texted by】
ARISA KUSABA( director )
本メディアは、デザインが経営課題を解決する手段であることを経営者の方へ広く知っていただきたいという思いのもと、情報発信を行っています。
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